トップ < ビジネスコラム < 深イイ話 ビジネス編
「ガラスの写真立て」
ある都心の一流 ホテル。
そのホテルは海外からのビジネスマン・ウーマンや日本の企業が開催するイベント等でいつも賑わっていた。
ただ土日になると人影も減る。1Fロビー横のレストランも終日客はまばらである。
そのレストランに毎月一度、日曜日にやってくる老夫婦がいた。老夫婦はいつも窓際の同じ席に座り、夕食をゆっくりとる。
レストランのホール係達も毎月やってくるその二人の顔はいつのまにか覚えてしまった。
会話は多いほうではなさそうだが、仲は良さそうだ。
ホール係の待機立ち位置からは、奥に座る婦人の物静かな顔と、紳士の少し丸まった背中が見える。夏は薄手のブルー系のシャツ、冬はグレー系のセーターを着た背中がホール係達の目には見慣れた光景になった。
ただ、ある年のある月になるとその老夫婦はレストランに現れなかった。ホール係達もその月は気づかずにいたが、それが数カ月続くと、「あのご夫婦は最近いらっしゃらないね」と話題になった。
夏が過ぎ、秋を迎えたある日曜日。その夫婦の主人だけが1人でレストランにやってきた。
いつもの窓際の席まで案内されると、その奥側には座らず、今までと同じようにホール係には背中を向ける位置に座った。いつもの背中だが、少し細くなったように見える。
料理を注文し終えると、ジャケットの内ポケットから小さな写真を取り出し、前の席に置いた。やがて料理が運ばれると、1人でゆっくりと食べ始めた。料理を運んだホール係は、「今まで一緒に来られていたご婦人の写真だった」ことを知り、他のホール係達に伝えた。
やがて1ケ月が経過し、その主人はまた1人でやってきた。いつもと同じ席に座り、いつもと同じように料理を注文した。そしていつもと同じように内ポケットから写真を取り出す。
ホール係達はそのことを確認した合図としてお互い目線を合わせると、その中から女性のホール係がご主人の席に向かい、横に立つと、持っていたガラスの写真立てにご婦人の写真を入れてさしあげ、その主人の斜め前にそっと置いた。主人は「ありがとう」と少しだけ会釈した。
主人はそれから何年かその写真立てと一緒にレストランに来られたが、数年が経ち、それ以降は姿を見せなくなったという。
(解説) この主人は大手企業の会長だった方で、写真立ての話はいつしか広まり、そのホテルのサービスの評判がさらに高まったそうです。
※深イイ話は当社が見聞きしたビジネス情報を一部脚色し、整理したものです。内容が事実か否かの確認はとれていません。





